原 浩恭(はら ひろやす)
人間の「心のクセ」を利用した歯周病治療中の患者の脱落防止策
From:原 浩恭(株式会社 歯科専門 集患アウトソーシング)
「虫歯の治療をしに来ただけなんです」
患者が口にするこの一言に、私たちはどのように向き合うべきでしょうか。
歯科衛生士による歯周基本治療やその後のSPT。
保険制度の上でも必要とされるこのプロセスは、患者の健康を守るための基本戦略です。
しかし現実には、
「虫歯が治ったからもういい」
「しみるからやりたくない」
「時間がない」
といった理由で、患者が離脱していくケースが後を絶ちません。
今回は、ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』の内容をもとに、歯周病治療における患者の継続意欲を高める方法をご紹介します。
1、最初の「はい」が、通院を継続させる鍵になる
チャルディーニは、人は一度何かに「自分の意思でコミットした」と感じると、その後もその選択に一貫した行動を取りやすいと述べています。
歯周病治療でも同じです。
患者に「歯周病治療が必要です」と説明するだけでなく、患者本人に「なぜ自分がそれを選ぶのか」を言葉にしてもらうことが大切です。
SRPやSPTの説明をする際には、ただ流れを伝えるだけでなく、
「なぜこの治療が必要だと思いますか?」
「将来、自分の歯で食事を続けたいと思いますか?」
などと患者に問いかけてみてください。
患者が自分の言葉で「はい」と答えること、それ自体が強い“コミットメント”になります。
この心理的効果が、治療継続のエネルギーになるのです。
2、小さな成功体験を積ませる
初期の歯周基本治療やOHIで、出血や口臭の改善が見られると、それは患者にとって“医院からの贈り物”になります。
人は何かをしてもらうとそれに報いたくなるもので、これが「返報性」です。
歯科衛生士が懸命に処置してくれる姿に、患者も応えようとします。
また、最初に小さな成功を実感してもらうことで、「じゃあ次の治療も受けてみようかな」という流れが自然に生まれます。
段階的にお願いしていくことで患者の納得感を高めましょう。
3、「みんなもやっている」は強力な説得力を持つ
「みんながそうしているから自分もそうする」
人が判断を他人の行動に委ねる傾向を、社会的証明の原理と呼びます。
院内ポスターやカウンセリングの中で、
「当院では90%の患者さんが歯周病治療を〇ヶ月ごとに継続されています」
「歯周病の治療は、今では虫歯の治療よりも大切と考える患者さんが増えています」
といったメッセージを伝えるだけでも、患者の意思決定に影響を与えることができます。
歯科衛生士が「〇〇さんも最初は同じように感じていましたが、今では歯周病治療を欠かさず続けてくださっていますよ」と伝えるのも効果的です。
患者の「自分だけが特別なケースなのでは…」という不安を和らげ、「通っていて当たり前」という空気を作り出します。
4、順序を工夫すれば、治療は“楽に”感じられる
患者が「SRPは痛そう」「〇ヶ月ごとの通院は面倒」と思っているときには、それ以上に過酷なイメージを“先に”提示しておくことで、現実の治療が“楽に”感じられることもあります。
たとえば、治療の選択肢として「何もせず放置した場合の歯の喪失リスク」や「重度の歯周病の外科処置」などを先に提示し、続けてSRP・SPTの説明を行うと、「それに比べればやってみようかな」という心理が働くのです。
これは苦痛に対する感じ方に差をつける“順序効果”であり、患者の選択に大きく影響します。
5、誰が話すかで、信頼は変わる
患者は、「この人の言うことなら信じてみよう」と思える相手の言葉には、自然と耳を傾けます。
信頼されている歯科衛生士や、親しみやすい院長先生の言葉が効果的なのはこのためです。
たとえば、歯科衛生士が担当制で継続的に関わり、患者の名前を覚え、不安に対して丁寧に応じる。
さらに、適度なお世辞や共通点を見つけて会話を重ねていくことで、患者との間に「好意」と「信頼」が育ちます。
これこそが、治療の継続を後押しする強力な土台になるのです。
6、終わりに
患者の心を動かすには、治療内容の正当性や制度的な必要性だけでは足りません。
人間の「心のクセ」とも言える心理メカニズムを理解し、治療の流れの中に自然に組み込むことで、歯周病治療の継続率は大きく改善します。
歯科衛生士の役割は、単に処置を行うことだけではなく、“行動を引き出すコミュニケーション”にもあります。
心理学を味方につけたアプローチで、患者の「通い続けたい」を育てていきましょう。
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PROFILE
原 浩恭(はら ひろやす)
株式会社 歯科専門 集患アウトソーシング
コンサルティング部門 医業収入アップコンサルタント
明治大学卒業。
歯科医院を数多く顧問に持つ税理士法人2社に在籍後、株式会社歯科専門集患アウトソーシングに入社。
前職では歯科医院専門担当者として年間医業収入が2億円を超える歯科医院を数多く担当し、歯科医院が成長していく過程を熟知している。
得意分野はA.P.O.manager(経営数値管理ソフト)を使ったデータ分析。課題を把握して確実に成果を狙っていく。