マネジメント


From:川上 裕也(株式会社 歯科専門 集患アウトソーシング)

「自分で考えろ」の落とし穴

ビジネス現場では、「考える力」「主体性」が称賛され望まれる傾向があります。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。

しかし、歯科医院のように現場作業が多く、精度と再現性が求められる職場では、「考えるよりも、まず正しく真似る」ことがスタッフ教育において非常に大切になります。

にもかかわらず、スタッフに対して

「自分で考えてやってみて」

と丸投げしてしまうケースは少なくありません。

結果、本人なりに考えた“工夫”が、現場基準から見れば大きなミスに繋がり、上司からすれば「何やってんだ」と思えるような行動を生み出します。

一方で、本人は「自分で考えてやれ、と言われたからその通り考えた末の行動」なので納得ができず、すれ違いと不信感だけが残る。

これが、スタッフ教育の現場でよくあるギャップになっています。

「考えない」ことは、思考停止ではない

スタッフ教育の最初のステップで大事なのは、「考えずに正確に模倣する」ことです。
これは決して思考停止ではなく、基礎を身体に染み込ませる学習プロセスです。

歯科衛生士であれ、助手であれ、受付であれ、

「なぜこの順番で器具を出すのか」
「なぜこの声かけをするのか」

その“なぜ”は、繰り返しの中で少しずつ追いついてきます。
この「あとから理解が追いつく」段階こそが、真の学びの始まりです。

スポーツでもピアノでも、まずは正しいフォームの模倣から始めます。
それと同じで、歯科医院の現場も「正しい型」を繰り返し練習することで、思考の土台が形成されるのです。

技術面においても、仕事の仕方・考え方においても「正しい型」から学ぶことがプロセスとして必要なのです。

上司・先輩がすべき「型の提供」

多くのスタッフがつまずくのは、「何が正しいのかが見えない状態」に放り込まれることです。

上司や先輩が手本を示さず、

「とにかくやってみて」

と指示してしまうと、新人は“評価基準の見えない不安”の中で動くことになります。

それはまるで、地図もコンパスも渡さずに「山登りしてこい」と言うようなもの。
結果、行動が委縮し、ミスをしたり仕事が遅くなったり、ということが続き、自信をなくして成長が止まります。

そうなると最初の段階で必要なのは、「模倣可能な環境づくり」になるでしょう。
見本を見せる。やってみせる。隣で一緒にやる。
この「型の共有」こそが、教育の第一歩となります。

「考える力」は、模倣の延長にしか生まれない

もちろん、いつまでも型の中に閉じ込めておくのは逆効果です。

しかし、「考えさせる」タイミングを間違えると、成長は止まります。

スタッフが本当に「自分で考えられる」ようになるのは、正しい型を徹底的に模倣したあとに訪れる段階です。

基礎が定着して初めて、応用が効く。そうなると教育の順番は明確となるでしょう。

  1. まずは「型を覚える」
  2. 次に「型の意味を理解する」
  3. 最後に「型を破る」

この順序を守ることで、スタッフが成長し、組織力・現場力が上がってきます。
その結果、自走できるスタッフが増え、歯科医院全体の経営品質は着実に上がっていくことになります。

まとめ

スタッフ教育を成功させる鍵は「まず正しく模倣させ、その後に考えさせる」という順番を守ることです。

最初から自走できるスタッフはごくわずかであり、多くの人は、手本を通じて初めて「正しい努力の方向性」を掴みます。

だからこそ、教育の第一歩目は「考えさせること」ではなくて「正しい型をみにつけさせること」。技術も仕事の考え方についても同様です。

模倣を通じて基礎が体に染み込み、初めて自ら考え、判断し、行動できるようになります。

この順番を誤ると、スタッフは迷い、思考が空回りし、やがて成長が止まります。

逆に、このプロセスを丁寧に積み重ねていくことができれば、組織全体が自走できるチームへと成長していきます。

医院が次のステージに進むべきとき、「型を示し、考えるための土台をつくること」が大切になるでしょう。



川上 裕也(かわかみ ゆうや)

株式会社 歯科専門 集患アウトソーシング
コンサルティング部門 医業収入アップ シニアコンサルタント

北九州市立大学卒業後、4つの会計事務所で約20年間、経営者の良きパートナーとして200件以上のクライアントを担当。

3件目の会計事務所で、弊社代表である渥美がGMを務める大型歯科医院の担当者となる。

当初、医業収入2億円規模だった歯科医院を、担当していた3年間で5億円以上に成長させる過程に携わった。

今までに関わった歯科医院からは、マーケティングとマネジメントを駆使して「院長個人とクリニックにお金が残るようになった!」「自信を持って経営判断を下せるようになった!」「業績が一気に回復した!」・・・などの絶大な信頼を獲得。

全国のクリニックから寄せられる経営相談に応え、東奔西走している。

趣味は、バスケットボール。

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